リアルな課題から得られる実践的な学び――産学連携と新?グラフィックデザイン学科が描く学びの構図/田中康博 教授 × 萩原尚季 准教授 × 戸島楓子(グラフィックデザイン学科4年) × 山道瑠乃(同3年)
インタビュー
#イラストレーション#グラフィックデザイン#在学生#教職員上記写真左から)田中康博 教授、戸島楓子さん、山道瑠乃さん、萩原尚季 准教授
芸工大の特色である産学連携による実践教育。グラフィックデザイン学科では、地域や企業との実践を通じて学生たちが自分の表現で“社会で機能する瞬間”を経験しています。その基盤の上で、2026年4月から、学びはグラフィックデザイン/イラストレーションの2コース体制へ。産学連携の事例を交えながら、実践教育がもたらす学生の成長とコース化による広がりについて伺いました。
グラフィックデザイン学科の学び:『ロゴ』、『ポスター』、『パッケージ』、『キャラクター』など、情報を視覚化し、社会に伝えるための表現を学びます
産学連携による実践教育:リアルな課題の解決、企業との対話、商品展開の設計、商標登録等の実務などを経験し、「社会の現場で使える実践力」を身につけます
卒業後の進路:グラフィックデザイナーやイラストレーターなど、複雑な情報をわかりやすく可視化する専門家として、広告?印刷業界はもちろん、医療?行政?メディアなど幅広い領域で活躍できます
2コース体制へ進化:「学べる内容」をよりわかりやすく整理。共通の基礎を学びながらも、徐々に専門性を本格的に深めていきます? ? ?
グラフィックデザインを学ぶということ──山形だから挑戦できるデザイン
――はじめに、グラフィックデザイン学科の概要を教えていただけますか
田中:芸工大のグラフィックデザイン学科は、ひと言でいえば「情報を視覚化し、社会に伝える力を育てるところ」。グラフィックデザインとは、単にレイアウトや絵を描く技術ではなく、世の中の「伝わりにくさ」や「もやっとした事柄」を、誰にでも届くかたちに整理し、わかりやすく見せるための“思考と実践”の学問です。

萩原:視覚伝達という言葉の通り、目で見て伝わる情報を全て設計していく、というのがグラフィックデザイン。そのために学科では、情報を視覚化する基礎やビジュアル表現の技術、クライアントの課題に向き合う姿勢や、社会と接続し自分の表現を世の中で試す経験など、4年間かけて基礎から専門性を高め、育てていきます。
田中:特に芸工大では、山形という地域特性を生かし、産学連携に力を入れていて、地域企業や社会課題と結びついた実践的な教育を重視しています。
萩原:実際の企業や地域の課題に触れる機会は非常に多いです。そうした経験が、学生の成長にとって大きく影響していると思います。
田中:ちなみに大学キャンパスは地域に開放されていて、朝は近所の方がラジオ体操に来たり、市内の園児が遠足で訪れたりと、大学が地域の暮らしの一部になっています。そうしたところにも、地域との結びつきが見て取れると思います。
――産学連携を教育にどのように活用しているのでしょうか
田中:通常の演習では、想定された課題に対して回答しますよね。一方で産学連携は、「今まさに解決を求められているリアルな課題」を扱います。依頼者が抱えている課題や条件にどう応えるか——その現場性が、普段の授業では得られない体験になります。
萩原:山形は課題が多い。その分、実践の場として鍛えられます。デザインは制約と向き合うことが常なので、より良い解決策を導くために、実際の現場で話を伺ったり、企業の方に大学に来てもらうことも多いです。学生にとっては、生の課題と正面から向き合う貴重な機会となっています。
田中:本学には地域連携を担う「共創デザイン室」があり、企業?団体から寄せられる相談内容に応じて、最適な学科や担当教員へ接続する仕組みを整えています。課題の性質によっては、複数学科による協働体制を組むなど、学科横断で取り組む機会があることも学生にとっては貴重な経験となります。
田中:近年はAIの普及により、企業がデザイン業務を内製化するのではないかという声も聞かれます。しかし、AIは水彩絵具やデジタルツールと同様、制作を補助するための手段の一つにすぎません。最適な表現にまとめ上げる工程は、人間の判断力に依拠しています。AIの浸透によってデザインが不要になるわけではなく、むしろ重要性が高まっている。そういった視点も産学連携教育の中で伝えていきたいですね。

産学連携で社会とつながる──実践の場で育つデザイン
――実際の産学連携の事例を、まずは戸島楓子さんと田中先生からご紹介いただけますか
戸島:私は、株式会社でん六さんからの依頼で本社正門前に設置される看板デザインを担当しました。でん六さんは2023年に創業100周年を迎え、その周年プロジェクトをきっかけに「今後もぜひ一緒に取り組んでいきたい」と、今回の案件につながりました。看板は横6メートル×縦5メートルほどの大きなもので、学生が提案した複数案の中から私の案を選んでいただきました。
田中:100周年のロゴデザインを担当した卒業生とのご縁が続いて、今回また依頼をいただいたんですね。本社にはもともと巨大なサインボードがあって、その更新を学生と一緒に進めることになりました。僕のゼミのメンバー5人ほどでプロジェクトチームをつくり、企業へのプレゼンを経て戸島さんの案が採用されました。
――制作中の指導で印象に残っていることはありますか
戸島:田中先生からは看板のサイズがとても大きいので、思い切ったデザインがいいよとアドバイスをいただきました。最初は控えめな構図を考えていたのですが、その言葉に背中を押され、でん六さんの長く愛されてきたキャラクター「でんちゃん」を大きく扱う方向に。でんちゃんを、空に向かって伸びやかに配置することで、通学路を歩く子どもたちが思わず「かわいい!」と笑顔になれる看板にしたい、と具体的に完成イメージを思い描けるようになりました。
田中:100周年のプロジェクトで、でんちゃんがとても愛されているということが改めて分かったので、その魅力を最大限に生かした戸島さんの提案は、企業側の意向ともぴったり一致しましたね。
――実際に完成した看板を見たときいかがでしたか
戸島:完成後に田中先生と一緒に見に伺ったのですが、通りかかる人が笑顔で会話しながら看板を眺めていて、すごく胸がいっぱいになりました。自分がいない場所で、自分のつくったものが「人の会話のきっかけになる」ことを知り、そんな作品作りができるのも産学連携ならではの体験だと感じました。また、私がもともと興味を持っていた広告制作に実際に携わることができ、自分の将来にとっても貴重な経験でした。
田中:僕らがやっているグラフィックデザインの仕事は、媒体によって寿命が短いものも多いんですね。でもこのサインボードはしばらくそこに立ち、街の風景の一部として多くの人の目に触れ続けます。学生時代にそういう仕事を経験できたのは、戸島さんにとっても非常に大きかったと思います。

――とても貴重な経験でしたね。続いて、山道璃乃さんと萩原先生の取り組みもお聞かせください
山道:私は、生活協同組合 共立社さんの70周年記念キャラクターのデザインに取り組みました。求められていたのは「親しみやすく山形らしいキャラクター」。最初は全くの白紙からのスタートでしたが、組織名の“共”の意味がとても温かく感じられて、この漢字を軸にしようと決めました。そこに、山形らしさとして、さくらんぼやお米の産地を象徴するお釜など、地域のシンボル的なモチーフを少しずつ織り込みながら形を整え、最終的に「ともっぷ」が誕生しました。子どもが呼びやすい丸い響きと、フルーツの“フ”をかけて「ともっぷ」にしました。
「ともっぷ」特設サイト>生活協同組合協立社公式note
萩原:このプロジェクトは2年生全員+希望した3年生でコンペ形式を取りました。一次審査で5案まで絞り、共立社さんの幹部や会員の方々にも見ていただきながら最終3案に。その中で「ともっぷ」が選ばれたのは、個性やバランス、親しみやすいキャラクター性がしっかり成立していて、クライアント側が求める「共立社ならでは」を一番満たしていたからだと思います。
山道:制作の過程では、授業で学んだコンセプトづくり、色彩、形の整理がすごく役に立ちましたし、萩原先生からいただいた「漢字に見えなくなると成立しないよ」というアドバイスは最後まで意識していました。

――採用されたときの気持ちはどうでしたか。また、実際の展開まで関わる中で、どんな学びがありましたか
山道:大きな喜びとともに、責任も感じました。キャラクターは作って終わりではなく、実際にどう使用されるかまで考える必要があると実感したからです。パッケージにしたら小さくなる、グッズだと立体感が必要……など、場面ごとの調整が本当に難しかったです。でも、そのおかげで今では共立社さんがぬいぐるみや着ぐるみを作ってくださったり、商品展開も進んでいて、自分のデザインが広がっていくのを見るのはとても嬉しいです。
萩原:山道さんは、キャラクターの展開事例や使い方のマニュアルまで、運用を意識して丁寧に作り込んでくれたので、依頼元がその後もスムーズに展開できています。コンセプトから実装まで一度に体験できた、とても良い事例だったと思います。
田中:さらに、ネーミングが実際に使われる段階になると、商標登録の確認など、社会に出す上での責任ある判断も必要になります。こういう感覚は、実際に産学連携で動いてみないと身につきにくいもの。学生にとって大きな財産になりますね。
萩原:今回の事例のように、産学連携への関わり方はプロジェクトチームやコンペ形式、授業など様々です。いずれにしても、実社会の課題を自分事として捉え、学生自らが主体的に考え、企画の立案からリサーチ、デザイン提案といったクライアントとのやり取りに臨みます。
こうした経験を通して、学生一人ひとりが「考えを形にする力」や「相手に伝える力」、「社会と関わりながらデザインする力」を身につけていくのです。
地域に根づくデザインの実践で、広がる成長と進路
――産学連携を通して生まれたものが地域で利用されていくのですね
田中:例えば『やまが炭』のパッケージは2016年からのご縁で、容量展開や派生商品までひろがり、10年以上関係が続くプロジェクトになっています。『山形代表』も長いですね。携わった学生が卒業しても後輩が引き継ぎ、依頼元の信頼とともにデザインが育っていく——これは大学としても大変ありがたいことです。

萩原:山形はデザインに理解の深い企業が多く、「時間をかけて一緒に育てる」という姿勢を共有できます。学生が関わった意匠が商品や広報に息づき、地域の中で“定着していく”過程を見届けられるのは、ここならではですね。こうした長期の往復運動が次の依頼につながり、学びの機会も連鎖していきます。
――こうした実践が学生の成長やキャリア形成にどのようにつながっているか、お聞かせください
田中:産学連携の実践に一度でも関わると、学生は「外でどう扱われ、どう見られるか」を常に意識するようになります。大学内の課題では「まとめる」ことに意識が寄りがちですが、現場ではターゲット、条件、制約、運用まで見据えなければいけない。結果として作品の質も幅も変わるし、地元に興味がなかった学生が、地域と関わるきっかけにもなります。
萩原:経験はポートフォリオの説得力にも直結します。実際に使われた事例は、就職活動で“語れる材料”になる。自分から動いた人ほど伸びるのが芸工大。地域就職だけでなく、東京や海外に進む卒業生にも、その“外向きの視点”が共通しています。
田中:卒業後のキャリアとしては、最近は広告?印刷の枠を超えて、医療や行政、メディアなど、複雑な情報をわかりやすく可視化する領域でのニーズが伸びています。患者説明資料を支援するメディカルデザイナー、自治体の住民向け資料、新聞?テレビのインフォグラフィックスなど、視覚化の専門性が評価される場面が増えています。
萩原:そうですね。入口は伝える情報に興味関心と好奇心を持つこと。その好きに対してどういう表現ができるか。おそらく好きなものがある人は他の人も共感しやすい表現ができると思うので、その感覚を研ぎ澄ますほど、進路は自然と広がると思いますよ。
学びのフィールドが拡張する──2コース制がもたらす新展開
――2026年度から、グラフィックデザイン学科は『グラフィックデザインコース』と『イラストレーションコース』に再編されましたが、学びはどのように変わるのでしょうか
田中:今回の再編は、これまで学科内にあった領域を、より分かりやすく整理したものです。1年次は全員が共通の基礎を学び、2年次以降に取り組み方や視点が少しずつ分かれていきます。3年次から専門性は深まりますが、両コースが完全に分断されるわけではありません。まずはグラフィックを土台に学びながら、制作を通して自然に自分の興味の軸が見えてくるイメージです。
萩原:表現には「どちらが正しい」ということはなく、目的に応じて効果的な手法を選ぶ力が重要です。ブランドの象徴として機能するロゴのような表現もあれば、人に親しみを持ってもらうキャラクター表現もある。新しい2コース制は、そうした“表現の選択”をより学びやすい形に整えたものです。また、共通基礎で両方に触れるため、1年生のうちに自分の得意が自然と分かってきますし、就職支援も手厚いので、進路の選択肢も広いです。

田中:さらに、新体制ではコースを越えた協働も増えていくでしょう。グラフィックとイラストが互いの強みを活かしながら、内容に応じて自然にチームが組まれる。新しいコース制は、自分の専門分野に対する学生それぞれのプライドをくすぐり、学びたい方向を後押ししながら、互いを高め合う環境として機能するはずです。
――最後に、受験生へのメッセージをお願いします
萩原:グラフィックデザイン学科と混同しやすい学科?コースに美術科グラフィックアーツコースがありますが、グラフィックアーツは自己表現がベースにある作家としての表現を学ぶ分野です。一方でグラフィックデザイン学科は、情報を視覚化して伝達する表現を学びます。また、グラフィックデザインコースとイラストレーションコースでは表現の手段が異なります。いずれにしても、自分の“好き”をベースに選んでもらいたいと思いますが、言葉だけでは伝わらないこともありますので、まずはオープンキャンパスへ。雰囲気に触れると、不安がほどけますよ。
田中:大学は面白い場所だよと伝えたい。面白さを味わいに来てほしいですね。
最新のオープンキャンパスの情報はこちら>東北芸工大 受験生サイト

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実践教育に力を入れる芸工大。その中でも、在学中から社会に触れ、自らの表現が実際に活用される機会を多くもつ点に、本学科の特徴が明確に示されています。2コース体制への移行は、その学びをさらに最適化し、学生が将来を描きやすい学科へ進化させるもの。デザインを志す高校生にとって、成長を後押しする環境が整備されていると強く感じました。
(取材:株式会社藤庄メディアプラス 小笠原慶子 撮影:法人企画広報課) 田中康博教授 プロフィール 萩原尚季准教授 プロフィール グラフィックデザイン学科グラフィックデザインコースの詳細へ グラフィックデザイン学科イラストレーションコースの詳細へ
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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